再放送は見た?映画『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』は面白くても笑えない?コンプライアンス違反の可能性を考察

2019年8月8日LGBT, おっさんずラブ

映画『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』に潜むコンプライアンス違反の可能性

おっさん同士の壮絶な恋愛バトルをリアルに描き、田中圭、林遣都、吉田鋼太郎ら実力派俳優の鬼気迫る演技でも話題をさらった『おっさんずラブ』。連続ドラマ版放送から1年あまりを経て公開される映画『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』のほうも、ドラマ版以上のドタバタ劇が繰り広げられるとして期待されている。

一方で、LGBTを正面から扱ったフィクション作品には少なからず批判がつきまとうのも事実。『おっさんずラブ』がコンプライアンス違反の網をかいくぐっている要因について多面的に考えていく。

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シンプルに笑える!

『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』も含め、『おっさんずラブ』は純粋なコメディであり、LGBTをテーマに据えた社会派ドラマとして見る人はほとんどいないだろう。

原作でも一貫して「読者を楽しませること」が徹底されており、ドラマのほうでも「30秒に1回は爆笑できる」と言われるように、おっさん同士の恋愛に絡めた小ネタがこれでもかと詰め込まれている。

キャスト陣の力もある。田中圭、林遣都、吉田鋼太郎と、実力派俳優が大真面目に恋愛バトルを繰り広げるところにこそ『おっさんずラブ』の真骨頂があり、幅広い年代に支持される理由にもなっているのである。

テーマへの共感度が高い

『おっさんずラブ』で描かれるのはおっさん同士の恋愛バトルだが、それだけがメインのテーマではない。

熟年夫婦のすれ違い、仕事のうえでのモチベーションの保ち方、幼馴染への秘めた恋心……おっさん同士の恋愛を縦軸として描きつつ、横軸では男女間での恋愛でも通じるメッセージを織り交ぜているからこそ、『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』を含めて『おっさんずラブ』はじょうしつのエンターテイメントとして仕上がっているのだろう。

LGBTを扱っていない

『おっさんずラブ』のブームを受けて、ふと考えてみる。

『おばさんずラブ』がもしも描かれたとしたら、果たしてこれだけヒットし、受け入れられるのだろうかと。

おばさんのおばさんによる、おばさんのための恋愛。

反論覚悟で言うが、これはきっと笑えない。こうして字面にしただけでも何とも言えない生々しさが漂い、娯楽作品として気楽に楽しむ、というわけにはいかないのである。その違和感は、これまで日本で消費されてきたゲイネタをそのままレズに置き換えてもおわかりいただけるだろう。

誤解されているかもしれないが、『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』を含め、『おっさんずラブ』はいわゆるLGBTを扱った社会派ドラマではない。むしろ、小ネタやギャグを徹底的にポップにし、ひとつひとつの笑いに普遍性をもたせたからこそ、『おっさんずラブ』はマジョリティに対して訴えかけられる作品として支持を広げてきたのである。

映画『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』が保毛尾田保毛男にならなかった理由

『おっさんずラブ』よりもずっと以前、同性愛といえばイジられるのではなく、茶化される対象であった。それを限界までデフォルメしたのがあの「保毛尾田保毛男」だろう。

とんねるずの石橋貴明が扮する「保毛尾田保毛男」は見るからに異質ないでたちで、当時の同性愛者に対するイメージ(あえて言えば偏見)を凝縮したキャラクターとして描かれている。「とんねるずのみなさんのおかげでした」のフィナーレにともなってリバイバルされたが、あまりにも不謹慎すぎる、LGBTへの配慮がない、などの激しい非難に遭うことになった。

『おっさんずラブ』もまた、LGBTをある意味でネタにしているという点では「保毛尾田保毛男」と同類である。同類ではあるが、世間一般での受けとめられ方には天と地ほどの差がある。

時代にマッチしている、LGBTを理解している、過激な描写がない、など、あれこれと理屈を並べたところで、行きつくところはただひとつ。

「ドラマ=地位が高い、コント=地位が低い」

結局、すべてはそこなのだ。仮に、「保毛尾田保毛男」がドラマとして、大真面目な作品のひとつとして提供されていたら、鬼の首を取ったような激しい批判にさらされたのだろうか。

LGBTへの時代感覚が変わったのではない。お笑いを低俗だと決めつけ、無条件に差別する視聴者の意識が変わっていないだけだ。

LGBTをテーマにしたおすすめ映画

『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』とは違った形でLGBTを題材にした映画はたくさんある。

『彼らが本気で編むときは』

生田斗真、桐谷健太がLGBTのカップルを演じたことでも話題になった。LGBTでありながら親戚の子どもを引き取り、育児と家事に励む彼らの暮らしを通して、「家族になることとは何か」ということを正面から描く。監督は荻上直子。

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『チョコレートドーナツ』

LGBTへの理解がまだ進んでいない時代のアメリカにおいて子どもを引き取り、「母親」として認められようとするひとりのゲイダンサーと子どもの交流を描く。中盤以降の法廷劇を通して、当時のアメリカにおけるLGBTのポジションについて考えさせられる。

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素直に笑える!映画『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』で明るく暑気払い

公開まであとわずか。ドラマ版以上の壮絶な恋愛バトルが楽しめる映画『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』。コンプライアンスなんて堅苦しいことを考えず、上質な笑いの連鎖で気軽に暑気払いをしよう。

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